2012年4月2日月曜日

石油の寿命はどれだけか


月刊 『生活と環境』 03年8月号
別処珠樹

 ここ数年のうちに石油の需要が生産能力を上回る がやってくる――そう主張する地質学者がいる。そうなればオイルショックの時のように、原油の価格がどんどん上がるかもしれない。彼によれば、今後は新しい油田が見つかっても埋蔵量が小さく、大きな期待はできないという。事実とすれば人類はもう安閑としていられないことになる。

 ところが、技術の改良などでこれまで採掘が難しかった場所でも掘れるようになり、あと30〜50年ほどは大丈夫だという説もある。また中には、心配する必要など全然なく、石油はまだまだ大量に地中に眠っているという意見も出ている。人によってそれぞれ言うことが違う。

 出てくる意見がばらばらでは、聞かされる方が困る。いったいどの説を信じたらいいのか。これは環境政策の根源にあるような大きな問題ではないか、そこがぐらぐらしていては、他の問題を考えるのにも具合が悪いじゃあないか――そういう声が出てきても当然だと思う。

 そこで私が開き直って、おそらくどれも間違っていないんだし、逆に見るとどの意見も間違っているんだろう――というと、みんな妙な顔をする。いったいどれが真実に近いのか検討することにしよう。

▼大反転が近い――米地質学者

 いちばん詳しい石油の情報はどこにあるのか。アメリカだ。何といってもエネルギー資源をいちばん欲しがっている国だし、世界の石油は、その4分の1にあたる26%がアメリカ一国で消費される。とりわけ確実なデータがありそうなのは国務省の地質調査局(USGS)だから、まずそこへ行ってみることにしよう。

 ところが最初からここで私たちはつまずいてしまう。調査局自体の意見とは違う個人の意見が発表されていて、これが局の意見と真っ向から対立するからだ。

 個人としての意見を発表しているのは古参の地質学者、レスリー・マグーンという人物で、この人の考えを彼のまとめた文書から読みとってみよう。

(1) 石油の需要が生産能力を上回ってしまう The Big Rollover がやがて起きるのは不可避である。
(2) その時期は2003年から2020年までの間という意見が多い。
(3) 大反転の後は、売り手市場となって価格が上昇する。
(4) その時になって慌てないように、いまから警告の声を上げ続ける必要がある。
(5) 新規に発見される石油の量は時とともに次第に少なくなっている。技術の改良や油田の発見で増える量は限られている。

 以上の点にマグーンさんの考え方はまとめられる。この意見は (2) に挙げた時期の問題を除いてまことにもっともだ。時期はともかく、いつかは必ずそうなるに違いない。ただし彼自身は、いつ石油が枯渇するかについて述べていないし、大反転の時期も明示していない。

 彼の描いたグラフを見ると、03年の時点でもう大反転が起きているのではないかと思われてくる。しかし改訂版が出た気配はなく、まだ反転したわけではないようだ。


TAMとは何か

 ただ、ここでぜひとも強調しておく必要があるのは、マグーン博士の大反転という考え方が、ネットのあちこちに大量に引用されていることだ。それだけ大反転の理論が有名になり、世界のNGOなどに影響を与えているのだと思われる。確かに石油の需要が今年中にも生産量を上回るとすれば、大変なことだ。人々が驚くのも無理はない。

 しかし、まだ結論を下すのは早いのではないか。他の意見も聞いてみる必要がある。

▼かなり余裕がある――米地質調査局

 さて今度はマグーン博士自身も属しているアメリカ地質調査局が報告書に書いている意見を読もう。同局は世界の石油について大規模な調査を行い、2000年に膨大な報告をまとめている。結論だけを取り出して箇条書きにしてみる。

 ただし、ここで使われている単位はバレルだ。バレルが樽の意味だと分かっていても、単位の表す量がどれだけのものかは分かりにくい。1バレルは約159リットル。ドラム缶1本は200リットルなので、大雑把にいえばドラム缶に八分目まで石油を入れた状態が1バレルに相当すると考えればいい。

(1) これまでアメリカ国外で生産された石油は5390億バレルである。アメリカ国内で生産された石油はおよそこの3分の1だから、合計すると約7000億バレルほどを世界が採掘して来たことになる。すでにアメリカ国内の残りはわずかになった。
(2) 確認埋蔵量と未発見埋蔵量を合わせると2兆1200億バレルと見積もることができる。
(3) 天然ガスの埋蔵量も、石油換算でほぼ同じ程度と見積もることができる。
(4) 可採年数や枯渇年数を示していない。かりに世界の年間消費量を現状の270億バレルとする。これで上の数字を割ると枯渇年数は78年となる。
(5) 石油の埋蔵量は、アフリカ大陸・アメリカ大陸の大西洋岸、それから中東で見積もり量が増えている。しかしメキシコや中国については減っている。

 この報告書ではマグーンの場合と違って、実際に数字をあげて現状を論じている。この数字がどれだけ現状を正確に反映したものかを判断するのは専門家にも難しいのではないか。それ自体が独立した予測の作業になるからだ。USGSのあげる数字でいちばん問題になるのは(2)の数字だろう。

 ここで調査局の意見はマグーンと大きく異なる。マグーン博士は未発見埋蔵量が次第に減り、さして重要なものではなくなりつつあると言っているからだ。彼のグラフ〔図1〕を見ると、確かにマグーンの側に軍配をあげたくなるかもしれない。

▼可採年数は50年――日本の試算

 さて次に日本の業界がどう考えているかを見ることにしよう。02年11月26日に石油鉱業連盟が可採年数と枯渇年数を発表した。

 確認埋蔵量にもとづく可採年数は33年、そのほかに今後の推移で17年分は確保できるので、その分を入れると可採年数は約50年となる。また究極の枯渇年数は79年と発表している(京都新聞などによる)。


なぜダイヤモンドは非再生可能です。

 この数字は上に見たUSGSの数字とほぼ重なり、日本の石油鉱業連盟はUSGSの数字を利用していることがわかる。この記事が出た時に東大の安井至さんは次のようなコメントを載せている。事実かどうか確認のしようもないが、そういうこともあるかもしれないと思わせるところがある。

 「石油鉱業連盟の予測は、結構悲観的なものに属する。それは、石油がいくらでもあるという話しを書くと、石油の価格が下がるからだと言われている」。

 独自の魅力ある理論を展開しているのは、京大の小出裕章さんだ。彼は可採年数がいくらかということには直接ふれず、可採年数が年を追うごとに増えていることに注目する。〔図2〕にこれを示す。

 これにもとづいて小出さんは、石油資源が言われるほど少ないことはありえないと主張する。そして、ウランの埋蔵量はたかだか知れたもので、これでもって石油の代替エネルギーにすることが可能だというのは明らかな誤りだと言っている。石油資源が少ないというのは原子力を推進するための方便ではないか――そうはっきり書かれているわけではない。でもそのように読める。

▼石油は化石燃料でない――ゴールド  石油はまだまだ地下に大量に存在しているのだろうか。

 この話となると、ぜひ登場してもらいたい人がいる。トーマス・ゴールドさんといい、1920年生まれだから今年83歳になる。たぶんまだ現役の研究者としてコーネル大学で活躍しているはずだ。

 この人が79歳の時に出版した 『未知なる地底高熱生物圏』(大月書店) という本は知的な刺激に満ちている。内容が多岐にわたっているので、その要旨を簡単にまとめるのは難しいが、およそ次のようなところだろう。

(1) 石油は生物の遺骸が変成したものではない。石油の中にふくまれる生物の生存をしめす物質は、後から混入したものである。
(2) 太古から地中深くに古細菌に属する生物が生息してきた。この生物は地中の炭化水素をエネルギー源としていた。
(3) 地上の生物より多くの生物が地中深くに生きている可能性が高い。
(4) 石油は太古から地中深く存在していた炭化水素が岩石の隙間を通って上がってきたものである。
(5) 数々の証拠から考えて、地下深くにはまだまだ大量の炭化水素が眠っている。

 ゴールドさんの考えを石油との結びつきで言うと、石油は化石燃料ではないということに尽きる。地下深くに見られる炭化水素が生物起源ではなく、太古からマントルや地殻に存在しているとすれば、量が非常に大きなものであっても不思議ではない。これまで書いてきた可採年数の話がばかばかしくなるほどの莫大な量であるかもしれない。もしもゴールド説が正しく、しかも地下数キロという深いところの採掘が可能であれば、石油などの炭化水素資源は、理論の上で今後まだまだ利用できることになる。

 この本をまだ読んでいない人を、これだけの文章で納得させるのは難しい。ぜひ訳本を読んでいただきたいと思う。79歳の高齢で、このような刺激に満ちた本を書ける人物がうらやましくなってくる。


QF 068は香港を何時に残し​​たのですか?

▼エネルギー消費は偏っている  老いてますます盛んなゴールドさんのいうように、もしも石油(だけでなく天然ガス・メタンハイドレートなど炭化水素)が海底や地中深くにきわめて豊富に存在しているとすると、問題はその採掘方法だということになる。これまで石油は生物起源だという考えから、ほとんど採掘は堆積層で行われてきた。しかし、今後は火成岩層でも採掘が可能になってくることも考えられる。

 これは朗報なのだろうか。一概にそうは言えない。

 これまでの化学工業の歴史を見ればわかるように、石油を原料とすれば無数の人工合成物質を作ることができる。ただ、それが人体や生態系にどのような影響を与えるかがすべて分かっているわけではない。わからない物質のほうが遥かに多い。大きく影響を及ぼす物質がつぎつぎと増えることになる可能性が大きいし、現にそうなりつつある。

 また燃やすことによって様々な分解生成物が大気中にまき散らされてきた。石油消費量の半分以上は交通機関によるものだ。自動車の排ガスが都市の大気汚染を生じて来たし、いまも大気汚染の大きな原因となっている。車からは大量の二酸化炭素も出る。二酸化炭素が増えた時にどういう事態が起きるか。これもまだよく分かっているとは言えない。

 もうひとつの問題は、エネルギー消費が大変かたよっていること。世界のエネルギー消費量を一人当たりの石油消費量(96年)で代表させてみると、次のようになる。

 アメリカ 8044キログラム
 日本   3661キログラム
 インド   297キログラム
世界平均 1464キログラム
 インドよりさらに低い国々がまだまだあることはいうまでもない。しかしインドとアメリカを比べただけでも、そこに27倍の格差があることがわかる。単純にいえば、1人のアメリカ人は27人のインド人と同じだけのエネルギーを使っていることになる。

 もっと単純化していうと、世界人口の4分の1、つまり先進国だけで世界のエネルギーの8割を使っていることになる。これは異常な状態としか言いようがない。

▼重要な仮定が隠れている  石油の可採年数を求める時には、埋蔵量の全体が採掘可能なのかどうかを見きわめなければならない。単純に確認埋蔵量を現在の生産量で割ればいいことにはならない。採掘が技術的に可能だという仮定が入る。

 これらの仮定とは別に、実はもう一つの仮定が入る。

 国によって1人当たりのエネルギー消費量は大きく違う。最高と最低で3桁ほど違うらしい。ところが可採年数を求める時には世界平均で計算してしまう。1人のアメリカ人が最貧国の人たちより3桁も多いエネルギーを使っていることを忘れてはならない。

 世界の平均数字を使って計算するから33年などという数字が出てくる。もしもインドの数字を使えばどうなるか。これは世界平均の約5分の1だから、これを使って割り算を実行すると、年数は5倍に伸びて160年となる。可採年数が何年という場合、こういう仮定についてよく考えてみる必要がある。


 逆に考えてみよう。世界全体がアメリカのペースでエネルギーを使えばどうなるか。アメリカは世界平均の約5倍のエネルギーを使っているわけだから、年数は5分の1の7年になる。つまり、USGSのデータに基づくとして、アメリカのペースならあと7年で石油は採れなくなる。一方インドのペースで行けば160年は大丈夫ということだ。

 日本のペースならどうか。日本は世界平均の2.5倍のエネルギーを使っているから、年数は5分の2、つまりあと13年となる。

 このような仮定が隠されていることが問題にならない(どこかで問題になっているのかもしれないけれど、一般の人々にまでそれが伝わらない)のはなぜか。もちろんそれはアメリカがデータの出所になっているからだ。アメリカの立場で言うと、自国のペースなら石油は7年で終わりなどと公言するわけに行かない。アメリカ政府は、エネルギー消費が今後かなり増えるという予測をすでに発表している。石油に大きく依存する体質を根本から変えようという姿勢がないに等しい。

▼最貧国の立場にたつと  ゴールドさんのたてた理論には大きな魅力がある。地下深くに無尽蔵に近いメタンが眠っているかもしれない。そういう夢をかきたてられる。でもそれが事実だとしても、すぐに利用できるわけではない。

 日本近海にもメタンハイドレート(メタン分子が水の結晶の中に閉じ込められたシャーベット状のもの)が大量に存在することは分かっている。しかし採掘が実現するのは20年ほど先だとされている。

 そんなわけだから、当分のあいだは石油に頼る状態が続く。石油を使うことから生じる問題を避けるために、この依存状態から脱出しようという試みがEUを中心として進んでいるのは確かだが、石油を凌ぐところまでは道のりがある。

 石油があと何年つかえるか。この問いをめぐる状況を概観してきた。ここからすぐにこれが正解だと答えを出すことはできない。いくつもの仮定が入りくんでいるからだ。中でも石油の消費量をいくらと仮定するかで年数が非常に大きく開くことには驚かされる。

 石油の危機は常に「人類」の危機として語られる。けれどそれはたかだか人類の4分の1が石油を使いすぎているからに過ぎない。4分の3の人々にとっては、本当に迷惑な話だということになる。

 そんなことを言っても現実にこれだけ使っているのだから仕方がないといってはならない。それは湯水のごとくに石油を使っている消費大国の立場を補強する言い方にすぎないだろう。一度は頭を冷やして途上国や最貧国の立場に立ってみても遅くはない。

Copyright: Tamaki Bessho 2003



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