2012年5月18日金曜日

日本財団図書館(電子図書館) 3S級舶用機関整備士指導書


1.4 部品の洗浄

 洗浄が悪いと、十分な点検が出来ないのみならず、組立試運転時に思わぬトラブルが発生することがあるので、入念に実施する必要がある。

1)燃焼カーボン落し

 シリンダヘッド、ピストン、吸排気弁、燃焼室、過給機等燃焼ガスにさらされる部分にはカーボンが固着しており、除去しなければならない。カーボンの除去には、市販のカーボン除去剤を使用するのが能率的である。これは予熱した浴槽に3〜4時間浸漬させカーボンを軟らかくして除去するもので、使用方法を誤らないよう注意が必要である。

 

2)一般部品の洗浄

 大きな整備工場では、自動洗浄機を使用しているが、一般には循環式の洗浄槽又は洗い桶を使用し、洗い油で手作業により洗浄する。

 なお、機関の外部は通常スチームクリーナなどを使用して洗浄する。

 

3)冷却器などの洗浄

 潤滑油冷却器、空気冷却器、清水冷却器など複雑な形状の部品は、浴槽内に入れて市販の洗剤に浸漬させた後スチームクリーナなどで洗浄するか、又は、洗剤を溶かした洗浄液をポンプにより循環させた後、管などは2・36図のようなナイロンブラシを使用して汚れを落とすなど、いろんな方法を組み合わせて洗浄する。

 

2・36図 冷却器掃除の一例

 

4)海水通路部のスケール落し

 シリンダヘッドや過給機、清水冷却器などの水位部には固いスケールが堆積しているが外部からは掃除出来ないところがあるので市販のスケール除去剤を使用するのが効率的である。

 方法としては除去剤を溶かした水溶液に指定された時間浸漬するか、2・37図に示すようにポンプを使用して洗浄液を循環させてスケールを除去した後、清水で洗浄する。

 なお、使用した水溶液は必ず薬品メーカの指示に従って中和した後廃棄すること。

 

2・37図 循環式のスケール除去方法

 

 

1.5 部品の点検及び検査


減衰振動ショックを実行する

 エンジン部品は、分解洗浄後下記に示すような点検を行い、整備基準に基づき交換するか、修正又はそのまま使用するかを判断するが、そのためには十分なる調査点検が必要である。判断できない場合はいい加減に処理せず、メーカに相談の上処置する事が大事である。

 

1)外観検査

 外部の欠陥、不具合を目視で点検調査する。

(1)表面の状態調査

 ピストンやライナ内面の傷、亀裂、焼き付き、軸受けのかじり等につき調査する。

(2)破損状況の調査

 歯車、ピストンリング、バネなどに、折損、破損が無いか調査する。

(3)腐食の有無調査

 ライナ外周、シリンダヘッドの水位部等、海水、清水にさらされる部分の腐食の状態を調査する。

 

2)寸法計測

 ライナの内径、クランク軸のピン部及びジャーナル部の径、各メタルの内径など重要部品の主要寸法を計測記録し、整備基準に基づき使用の可否を判断する。

(注)分解した部品の寸法計測に使用するマイクロメータやシリンダゲージ、機関の組立時に使用するトルクレンチ、運転性能の確認に使用する回転計、温度計、圧力計等、整備時並びに運転時に必要な計測器及び計測工具については、第4章に記したので参照されたい。

 

3)亀裂の検査

 目視検査で発見できなくても、シリンダヘッドやピストンの燃焼面、クランク軸のピンやジャーナル付け根のR部等には、亀裂が発生している事がある。このような亀裂の発見には、カラーチェックや磁気探傷法等の非破壊検査により調査する。

(1)カラーチェック

 洗浄液、浸透液、現像液の3種類の液を使用して亀裂を調査するもので、先ず

・調査する面に洗浄液を吹き付けて、油脂類など浸透液の浸透を妨げる付着物を除去する。

・表面が十分乾燥したならば、赤色の浸透液を吹き付けて10〜20分待つ。

・ウエスに洗浄液を付け浸透液を拭き取る。(洗浄液を直接吹き付けても良いが過ぎると亀裂に浸透した液が流れ出て亀裂が発見出来ない事があるので注意すること。)


メンブレンスイッチとは何か

・現像液を良く攪拌した後、約30cm離したところより上下に振りながら生地の色が微かに残る程度に均一に吹き付ける。

 表面が乾燥してしばらくすると傷があれば赤色の浸透液がにじみ出てくる。

・検査が終わったならば、現像液を除去した後防錆処理を施す。

(2)磁気探傷試験(マグナフラックス)

 クランク軸など磁化出来る部品に磁化電流を流して磁化させておき、磁粉をかけて亀裂を見つける方法で、微小な傷まで発見できる。磁化電流を流すと、流れと直角方向に磁束線が生じ、亀裂があれば磁束線が通りにくくなり傷の部分で漏洩する。ここに軽油に溶かした磁粉をかければ、漏洩磁束に引きつけられて付着する。即ち亀裂の形となって現れる。

 最近は通常、蛍光を当てると発光する蛍光磁粉を使用しているので、亀裂の発見が容易となっている。

 なお、検査終了後は必ず脱磁を行い完全に磁気を無くしておかなければならない。

 

4)硬度検査

 クランク軸の軸受け部やピストンピンなどの焼き入れ部品は、焼き付いたり、異常に摩耗した場合には、硬度が低下することがある。硬度を調べるときよく使用するものに携帯用のショア硬度計とハードネスタがある。

(1)携帯用ショア硬度計

 使用方法は硬度計を試験面に垂直に立て、上部の押し棒を親指で押すと、ガラス管内のダイヤモンドハンマが落下し(圧痕の深さは0.01〜0.005mm)その跳び上がる高さをガラス背面の目盛りで読みとる。指を離せばダイヤモンドハンマは自動的に上部の元の位置に戻る。

 硬さはロックウエル、ブリネル、ビッカースの各硬さに換算できる。

 

2・38図 ショア硬度計

 

(2)ハードネスタ(硬度比較ヤスリ)

 測定しようとする部分に硬度の判っているヤスリをかけ、そのかかり具合により硬さを比較測定する方法であり、ショア硬度計のように真上でなくとも測定することが出来るが、測定面に傷がつくことがあるので注意を要す。

 

1.6 機関の組立


油井を破壊

 組立は分解と同じく、取扱説明書や、整備マニュアルに従って適正な工具や、専用工具を使用して注意深く行い、最後の仕上げなので部品の組忘れや、締め付け忘れがあってはならない作業である。

 組立時の一般的な注意事項は下記の通りである。

(1)機関組立時には、手袋、ウエスなどは使用しない。

(2)スキマ、バックラッシュ等、組立寸法が規定されている箇所の寸法は、必ず計測し記録する。

(3)各部品は、ゴミや挨などが入らないように気を付けて組み付ける。

(4)摺動部分の部品は、新しい洗油で再洗浄し圧縮空気で乾燥させた後、潤滑油を十分塗布して組み立てる。

(5)パッキン類は純正部品を使用する。(使用箇所により耐熱、耐油、寸法、などの規制をしている物がある)

(6)割ピン、座金等は必ず新品に交換し、回り止めに使用する舌付座金などは忘れずに確実に折り曲げる。

(7)オイルシールは、組み付け方向に注意すると共にリップに傷を付けぬよう当て金を使用して均等に押し込む。

 

2・39図 オイルシールの組み付け

 

(8)ボルトやナットの座面及びネジ部には、メーカで指定された潤滑剤を塗布して締め付ける。

(9)締め付けトルクが指定されている主要ボルトは、片締めにならないよう指定された順番通り2、3回に分けて徐々に締め付け、最後はトルクレンチを使用して規定トルクで締め付ける。

(10)ボルトやナットは、長さと材質に注意し、決められた物を使用すること。

 

 

1.7 試運転

 組立後、初めての運転であり、始動前及び始動後も下記事項に付き十分注意し事故の無いように作業しなければならない。

 

1)始動前の準備

(1)締め忘れ、部品の付け忘れがないか確認する。

(2)クランクケース内や、弁腕室等に、工具や部品の置き忘れが無いか確認する。

(3)潤滑油系統のフラッシングを実施する。(通常は事前に実施しておく)

(4)冷却水、潤滑油を注入し水漏れ、油漏れの無いことを確認する。


(5)燃料の噴射を確認後、燃料ハンドルを停止位置にして各燃料ポンプのラックがカット位置にあるか確認する。(列形ポンプでは停止レバーで燃料がカット出来るか確認する)

(6)ガバナ及び燃料ポンプ関係の連結リンクがスムースに作動するか確認する。

(7)潤滑油のプライミングを行い油圧の上昇を確認すると共に油漏れの有無をチェックする。

(8)クランク軸をターニングして、回転部分の異常、燃焼室内への異物混入の無いことを確認する。

 

2)始動直後

 機関始動後、回転速度を低速にして下記に付き急ぎ点検する。

(1)潤滑油及び冷却水の圧力は上っているか又冷却水は出ているか。(不具合があれば停止して修正する)

(2)油漏れ、水漏れ、ガス漏れは無いか。(異常があれば修正する)

(3)異音の発生はないか。(発生場所によっては即、停止させる)

(4)機械音、排気色、及びミストガスの量に異常はないか。

 

3)始動数分後

(1)一度機関を停止して、クランク軸ジャーナルメタル他各軸受部に、異常な発熱が無いか点検する。

(2)異常がなければ機関を再始動し、異音発熱などに十分注意しながらならし運転を行う。

 

4)試運転(調整運転)

 ならし運転が終わったならば徐々に回転を上げて負荷をかけながら試運転を行い、

(1)燃料ポンプの噴射量、噴射時期を調整して、排気温度、及び筒内最高圧力をメーカの指定する範囲内に揃える。

(2)各部に異音発熱等異常のないことを確認する。

 なお、試運転中は中間軸受、船尾管軸受等、芯出しに起因する各軸受の温度上昇に十分注意する。



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