地球電磁気についての様々な質問にお答えします。
Q1.地磁気はどこでつくられるのですか?
A1.
地球の磁気のことを地磁気といいます。 35億年前の岩石にも地磁気のなごりが残されていることから,地磁気は地球の歴史(46億年)のかなり早い時期からあったことがわかります。人類が地磁気の様子を詳しく調べるようになったのは大航海時代になってからで,ヨーロッパの人たちが地球の各地に出かけそこの地磁気の向きを調べて航海に役立てました。そのような資料から,地表の地磁気の向きは,地球の内部に棒磁石のようなものがある場合とそっくりであることがわかり,地磁気の原因は地球の内部にあることがわかってきました。ただし,棒磁石のような永久磁石は数百度に熱すると磁石の性質をほとんどなくしてしまいますが,地磁気は高温の地球の内部で作られているわけで,地磁気の原因を永久磁石で説明することはできません。地磁気の原因がなんとかわかる ようになったのは,地球の内部の様子が明らかになってきた20世紀中頃になってからのことです。
地球は地殻,マントル,核という部分から作られています。核は鉄やニッケルから作られていて,外側は外核といって流体,内側は内核といって固体です。そして地磁気を作っているのはこの外核の部分だと考えられています。
外核はとても電流を流しやすい性質をもっています。電流が流れると,右ネジの法則で磁場が作られます。これが地表までしみだしていくと,地磁気として観測されるわけです。ではどうして電流が流れるのでしょう。それには外核が流体であることが深くかかわっています。磁場の中を流体が動くとフレミングの左手の法則で電流が流れるわけです。電流や磁場は最初は小さなものであっても,お互いに強めあってしだいに大きな電流や磁場になります。流体の運動,電流,磁場(地磁気)は互いに影響を及ぼしあうので非常に複雑です。この様子を研究するのが電磁流体力学という分野で,これを地磁気の成因に応用したものは特にダイナモ理論と呼ばれています。
地磁気の成囚はとてもむずかしい問題で,今でも100%解明されているわけではありません。ダイナモ理論に基づく研究が,スーパーコンピュータを活用するなどいろいろな方法で,現在も取り組まれています。
Q2.地磁気の強さは,どれくらいですか?
A2.
磁束密度で約46,000nT(ナノテスラ。テスラは磁束密度の単位,ナノは十億分の一を表します)。この値は現在の日本でのおおよその地磁気の強さです。
しかしいきなり数字を並べてもピンと来る方はあまりいないと思いますので,以下このことについて,簡単に説明しておきます。
まず始めに,地磁気は方向を持つベクトル量であり,さらに強さも向きも場所によって違うだけでなく,時々刻々変化しています。
地球上での地磁気の分布(図2-1)を見ますと,大まかに言って極地方で大きな値を示し,赤道付近の低緯度地方で小さな値を示す傾向があり,だいたい25,000nT(南米大陸中心付近)から,65,000nT(オーストラリア南方の南極大陸海岸付近)ぐらいになります。
図2-1 地表の磁場強度分布(全磁力,2000年)
地磁気の一日の変化は通常数十nT程度です。つまり磁気嵐等の特別な現象が発生した場合を除けば,一日の地磁気の変化は,地磁気の強さの0.1%程度と言うことになります。
これに対し地磁気の最も変化の大きい擾乱現象である磁気嵐は,太陽フレアーによって起こると考えられており,その大きさは,数百nTになります。しかしそれでも変化の割合としては地磁気全体の1%程度です。但し,これらは日本等の低緯度における値です。
最後に地磁気の大きさを,身近に利用されている人工の磁場の大きさと比較してみます。例えば,血行を良くして肩こりにきくと言われる磁気健康器の類は,だいたい千数百ガウスの磁束密度を持っています。1ガウス=100,000nTですから地磁気の2,3千倍の強さになります。また磁石の反発力を利用して,数十トンの車両を浮上させるリニアモーターカーは,数Tもの磁束密度を発生させることができます。これは地磁気の実におよそ十万倍にもなります。
Q3.地磁気の極と地理上の極は違うのですか?
A3.
違います。とは言ってもちょっと事情が複雑です。なぜなら,地磁気の極には「磁極」と「地磁気極(または磁軸極)」という2つの極があるからです。
さて,現在の日本では方位磁針のN極(通常は赤いほう)の指す方角は「真北」ではなく,少しだけ西の方に偏ります。実はこれと同時に方位磁針のN極は下を向いているのです(実際の方位磁針はこのことを考慮して針の重量バランスを取っているのでほぼ水平になります)。真北から偏る角度を「偏角」,下を向く角度を「伏角」と言います。この偏角の方向,つまり方位磁針のN極の指す方へ向かってずっと進んで行くと伏角は次第に大きくなり,ついには方位磁針のN極が真下を向くところにたどり着きます。この地点を「北磁極」と言います。逆に,方位磁針のS極の指す方へ向かってずっと進んで行くと,今度は方位磁針のS極が真下(N極が真上)を向く地点にたどり着きます。この地点を「南磁極」と言います。この2 点が「磁極」です。 1980年には,「北磁極」はカナダ北方のN77.0°,W102.0°,「南磁極」は南極大陸近傍のS66.5°,E139.09°にあったとされています(図3-1)。ここで簡単な問題を1つ。「南北2つの磁極はどちらがN極でどちらがS極でしょうか?」。勘違いしやすいのですが、北磁極はS極,南磁極はN極というのが答です。磁石のN極はS極に引かれます。方位磁針のN極を引きつけるので、北磁極はS極なのです。
ところで,地球上の各地で地磁気の観測(偏角や地磁気の持つ力の観測)をすると地磁気の分布図ができます。ここで地球内部に1つの棒磁石(正確には磁気双極子)があると考えましょう。この棒磁石が存在することによって計算される地磁気の分布が観測された分布図と同じになるよう棒磁石の方向を設定します。こうして考えられた棒磁石の長さ方向への延長線が地表面へ出てくる2地点をそれぞれ「地磁気北極(北磁軸極)」,「地磁気南極(南磁軸極)と言います。この2点が「地磁気極(磁軸極)」です。 1990年現在,「地磁気北極」はN79.1°,W71.1°,「地磁気南極」はS79.1°,E108.9°にあるとされています(図3-2)。
「磁極」と「地磁気極(磁軸極)」の定義は上述のとおりです。ここまでに気付いた方もいると思いますが,「地磁気極」は地球の中心に対して対称な位置にあり,一方,「磁極」は対称な位置にはありません。地磁気極が対称な位置にあるのは定義から明らか。では磁極が対称になっていないのはなぜか。これはれっきとした観測事実なのですがその原因は地磁気の成因とも深い関わりがあり,まだよくわかっていないのが現状です。
終わりにもう1つ。上の説明の中で「◇○年現在,極の位置は・・・とされています」という表現にしているのを疑問に思った方もいるでしょう。地磁気の観測が始まって200年近くになりますが,その歴史の中で図3-2のように「磁極」が移動していることが判明しました。さらに,岩石の生成過程で岩石中に閉じ込められた磁気(残留磁気)を分析するという手法で過去に遡ってみると,磁極は移動どころか「逆転」している時代もあり,その逆転も何度も繰り返されていることがわかっています。そのため,このような表現になってしまうわけです。
Q4.地球の磁力線は宇宙の彼方まで伸びているのですか?
A4.
地球の中心には大きな磁石があります。もしも地球のまわりに何もなくどこまでも真空ならば,地球の磁力線は遥か彼方まで棒磁石の磁力線同様の形をして伸びているでしょう。しかし,太陽からは常時ガスが吹き出しており地球周辺では速さ数百km/sec,粒子密度数個/cm3の電気伝導度の高いプラズマ(ほぼ同量の陽イオンと電子を主体とする電荷を帯びた粒子の集まりで全休としては中性である)の流れとなっています。この流れを「太陽風」と呼んでいます。太陽風は太陽の磁場を引きずるような形で運びます。その磁場は,地球の周辺では数nT程度の強さになっています。太陽風の中には陽子,電子のほかにもヘリウムや酸素、炭素などのイオンも含まれています。
地球の昼(太陽に面している)側では地球に向かってきた太陽風が地球の磁場によって進路を妨げられます。見方を変えれば,図4-1のように,太陽風は地球の磁場の圧力とちょうど釣り合う位置まで地球の磁場を圧縮し,そこから四方に分かれて地球を包み込むように後ろへ流れており,それに伴って地球の磁力線が吹き流されています。それはあたかも彗星の如く長い尾を引いて見えることでしょう。全体としては太陽風の中に細長い空洞(磁気圏)が出来ることになります。磁気圏と太陽風との境界(磁気圏界面)には電流が流れ,その電流は磁場が太陽風側へ漏れ出るのを遮ります。地球の夜(反太陽方向)側の長く伸びた部分は磁気圏尾部と呼ばれ,赤道面を境に,南半球では地球の南極付近に端を発した磁力線が太陽と反対方 向にのび,北半球では太陽方向に向いて北極付近に集まっているような形をしています。
磁気圏の広がりは昼側では地球の半径(約6、380km)の10倍(6万km)程度です。尾部は最近の人工衛星の観測では地球の半径の3,000倍(2,000万km)以上もあることが確認されています。尾部であることの認定は磁場の方向が地球と太陽を結ぶ直線の延長上にほぼ沿っていることなどによります。
磁気圏尾部の中心付近には,反対向きの磁場が接していて磁場が極めて弱い場所(磁気中性面)をはさむプラズマ・シートと呼ばれる領域があります。そこにはエネルギーの低い(1 keV程度)プラズマが分布しています。オーロラ粒子はこのプラズマ・シートからやってきます。磁気圏内で様々な現象を起こすエネルギーの源は太陽風のエネルギーです。このエネルギーを磁気圏内に取り込むための過程のひとつとして,太陽風内の磁力線が南向きとなったときの磁気圏内の磁力線(北向き)との再結合が上げられます。再結合が起こると太陽風の動きに伴って,地球の磁力線が夜側へと運ばれるようになり、その結果プラズマ・シート内の磁場エネルギーが増大します。この磁場エネルギーの蓄積がある限界を超えるとそれがプラズマの運動エネルギーヘと転換し高速のプラズマ流を生じさせることになります。
このように磁気圏も惑星間空間も絶えずプラズマや磁場の分布が変化しており,様々なドラマを演じています。それらの様子は,地上からの観測,ロケット,人工衛星などの観測手段の発達に伴って少しずつ明らかにされています。
Q5.磁気嵐とはなんですか?
A5.
地球の磁気圈は,磁場が荷電粒子の動きをくいとめる作用によって,地球を太陽風からまもっています。でも,秒速数百kmの激しい太陽風の流れの中にあるわけですから,太陽風の状態に変化があるとその影響を受けて,磁気圈の中に波紋が生じます。磁気嵐は,太陽風の影響を受けて生じる,磁気圈内全体にわたる電磁気的擾乱です。
磁気嵐のことを説く前に,磁気嵐を引き起こすエネルギー源である太陽風の故郷,すなわち太陽に目を向けましょう。太陽と磁気嵐とのかかわりの中で必ず登場するのが太陽黒点です。太陽黒点は,太陽内部の磁場が太陽表面にまで出てくる部分にあたります。磁場の作用でそこの温度が下がっていて周囲より暗くなっているため黒点といわれます。太陽黒点では,磁場のエネルギーが蓄積され,あるところで爆発的にエネルギーが解放される現象,太陽フレアー(フレアーは炎の意味)が起こります。太陽フレアーで放出された荷電粒子は磁気嵐を起こす大きな原因の一つとなっています。ちなみに,太陽活動という言葉をよく耳にされると思いますが,太陽活動は太陽黒点数によって表されます。太陽黒点が多くなればなるほど太陽 フレアーの発生数も多くなり,太陽が活発になるので,太陽の活動を示す指標として用いられています。
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